認知症と相続:事前対策で家族の負担を軽減する方法

課題、対策、そして未来への備え

超高齢社会を迎えた日本では、認知症に関連する問題が増加しています。厚生労働省の統計によると、2025年には認知症の高齢者が約700万人(65歳以上の約5人に1人)に達すると予測されています。ここでは、認知症と相続にまつわる問題と、その対策について詳しく解説します。

目次

  1. 認知症が相続に与える影響
  2. 認知症による相続の主な問題点
  3. 事例:田中家の場合
  4. 事前に備えるべき対策
  5. 各対応策の比較
  6. 家族信託の活用
  7. 生命保険の活用方法
  8. 専門家の活用
  9. まとめ:未来に備えるための総合対策

認知症が相続に与える影響

認知症を発症すると、財産管理が困難になり、契約行為ができなくなることで様々な問題が生じます。また、相続手続きが複雑化し、家族の精神的・経済的負担が大きく増大します。事前に備えることが非常に重要です。

認知症による相続の主な問題点

1. 財産凍結の問題

認知症になると、本人名義の銀行口座が凍結され、生活費が引き出せなくなることがあります。また、年金や資産の管理が困難になるといった問題も発生します。

2. 生命保険金の受取困難

認知症の方が受取人の場合、請求手続きができず、保険金を受け取れない状況に陥り、家族の経済的支援が滞る可能性があります。

3. 遺産分割の難しさ

認知症の相続人がいる場合、遺産分割が非常に難しくなります。遺産分割協議には相続人全員の同意が必要ですが、認知症の方は法的に有効な同意ができないため、法定後見人を選任する必要があります。

  • 全員同意の必要性:遺産分割協議には相続人全員の同意が必要ですが、認知症の方は法的に有効な同意ができません
  • 法的手続きの複雑さ:法定後見人選任後も家庭裁判所の許可が必要となります
  • 不動産共有の問題:不動産が共有状態になると、その解消が非常に困難になります

4. 法的手続きの複雑さ

後見人選任の申立て手続きは複雑で、高額な費用負担(後見人報酬:月1〜6万円)が発生します。さらに、家族の意向に基づく柔軟な対応が難しくなります。

事例:田中家の場合

78歳の幸子さんは徐々に認知症が進行し、夫が介護を担っていました。東京で働く長男の健一さんと大阪で仕事をする次女の美咲さんは頻繁に帰省することができません。

認知症の進行

  1. 初期症状:「さっきご飯食べたかしら?」という記憶の混乱
  2. 半年後:「誰かが財布を盗んだ!」という妄想の発生
  3. 現在:夜間徘徊が始まり、24時間目が離せない状態

ある日、疲労が重なった父親が急性心不全で急逝。残された家族は認知症が進行した母親を支えながら、突然の相続問題に直面することになりました。

事前に備えるべき対策

認知症による相続問題を防ぐためには、事前の備えが非常に重要です。

1. 家族での話し合い

親の資産状況や収入の把握、介護に関する希望の確認、相続に関する意向の共有を行いましょう。

2. 遺言書の作成

遺言書を作成し、遺産分割方法を明確にしておくことで、将来のトラブルを防ぐことができます。

2020年7月10日から始まった自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、遺言書の紛失・隠匿・改ざんを防止でき、相続開始後の家庭裁判所での検認手続きが不要となります。

  • 法務局職員が形式要件を確認するため無効となる可能性が低い
  • 全国どこの法務局でもデータによる閲覧や証明書の交付が受けられる

3. 任意後見契約の締結

判断能力があるうちに、任意後見契約を締結することで、判断能力が低下した際の財産管理について、自分の意思を反映させることが可能になります。

各対応策の比較

成年後見制度には法定後見と任意後見の2種類があり、それぞれに特徴があります。
制度選択のポイントとしては、本人の判断能力の状態、家族の状況と希望、財産の種類と規模、そして必要な柔軟性の程度を考慮することが重要です。

成年後見制度の特徴

法定後見制度のデメリット

  • 月額報酬(1~6万円)の継続的発生
  • 家族が後見人になれるとは限らない
  • 家族の意向に基づく支出の制限
  • 家庭裁判所への定期報告義務

任意後見制度のメリット

  • 後見人を自分で選べる
  • 契約内容を自由に設計できる
  • 発効時期を柔軟に決められる
  • 家族の意向を反映しやすい

各制度の比較表

項目法定後見任意後見家族信託
開始時期判断能力低下後判断能力低下前判断能力低下前
手続き家庭裁判所申立て公正証書契約信託契約
柔軟性制約多い制約少ないが限界あり非常に柔軟
費用継続的報酬契約時費用契約時費用
主な用途財産管理・身上監護将来の財産管理財産承継・柔軟活用

家族信託の活用

家族信託は、元気なうちから資産管理を子供に任せ、積極的な運用をしたい場合に利用されることが多いです。信頼できる家族に財産管理を託すことで、将来の認知症リスクにも対応できます。

家族信託のメリット

  1. 資産凍結の回避:家族間で契約を結ぶだけで、口座凍結や不動産売却不能などの事態を防ぐ
  2. 自宅売却の円滑化:高齢者施設への入居などで自宅を売却する必要が生じた場合、必要なタイミングで売却を円滑に進められる
  3. 家族の事情に応じた契約:家族信託契約はオーダーメイドで作成でき、家族の事情に合わせて信託の目的や財産を選択できる
  4. 柔軟な財産管理:裁判所が関与しないため、柔軟な財産管理が可能。認知症対策だけでなく、相続対策としても活用できる

生命保険の活用方法

また、生命保険は認知症に備える重要なツールになります。

指定代理請求人の設定

認知症発症後も保険金請求が可能になり、本人の口座凍結時も保険金を受け取れます。受取口座を指定代理請求人の口座に設定することも重要です。

介護保障付き保険の活用

  • 介護状態時に一時金・年金を受給できる
  • 早期加入で保険料が割安になる
  • 預貯金とみなされず、介護施設利用時の負担軽減になる

生命保険の見直しポイント

  • 受取人設定の確認
  • 指定代理請求人の設定
  • 保険契約内容の定期的な確認

専門家の活用

認知症と相続の問題に対処するためには、専門家の力を借りることが非常に重要です。

専門家を選ぶ際のポイント:

  • その分野での実績
  • コミュニケーション能力
  • 継続的な関係を構築できるかどうか
  • 費用対効果
専門家相談内容
弁護士法的問題の相談
司法書士登記や法的手続き
ファイナンシャルプランナー資産設計
税理士相続税対策
社会保険労務士年金・介護保険手続き
社会福祉士介護・福祉サービス

まとめ:未来に備えるための総合対策

認知症と相続の問題は、事前の準備で多くを回避できます。元気なうちに対策を講じておくことで、家族の負担を軽減し、大切な家族の絆を守りましょう。